ホメオパシー黙示録

みなさんゴールデンウィークどのように過ごしたでしょうか?

僕は地元に帰って昔の友人と酒を飲んだり、元カノのお家にご飯を招待されたり、祖母宅に言って「結婚まだなのか?」と詰められたりしました。アムロ・レイギュネイ・ガスを撃墜するぐらいの気軽さで老人は結婚まだなのかと聞いてきます。控えめに言って死にたい。俺もギュネイみてえに爆散してえ。最高に死にてえ。

昔の友人に会ったらホスト狂いしていたり、パチンコにお金を注ぎ込むマンになっていたり、アムウェイの伝道者になっていたり、みなさんも色んなことを経験したことがあると思います。反ニューク、反ワクチンに闇落ちした友人が僕にもいます。アベやめろーと太鼓を叩いているような芳ばしい人たちもいます。

このゴールデンウィーク中学生の頃、仲がよかった友人たちの飲みに顔を出したら、僕の元友人からついにホメオパシーウーマンが誕生してしまいました。え、デビルサマナーの合体事故ってソフト使わなきゃ起こらないじゃん……。なんで、現実はこんなことが簡単に起こってしまうんや……。

いきなり彼女を全否定するわけにもいかず、話を聞いていたのですが、やはり芳ばしい人たち特有の「みんな騙されている」とネトウヨコンテンツで真実の歴史を知ってしまった、ミリオタ高校生みたいにぐいぐいとホメオパシーについて彼女は語りました。

きっと産後に誰か寄り添ってくれた人が本当によくない人だったんだとは思うんですよ。でもそんな事情僕たちにはまったく関係ありません。波動が云々とか、宇宙戦艦ヤマトのエンジンみたいな話をしていたような気がします。アルコールでベロベロに酔っている筈なのに、急に酔いが覚めていくこの感覚。かつて親しかった友が誤った道へと進んでしまった感じです。

例えるならベトナム戦争で一緒に戦闘機から脱出して、怪我した自分をかばってベトナムのジャングルを逃げ回った元戦友が汚職をやっていた人のような気持ちになりました。

あ~濁る~。親しかった人が闇落ちしてくの限界過ぎる。他に話を聞いていた人たちも同じ気持ちなのか、チベットスナギツネみたいな虚無の表情を浮かべていました。すごいな人間。あまりに感情が喪失するとあんなふうになるんだと僕は思いました。おしぼりをぎゅうぎゅうと絞っているマン、髪の毛を指でくるくるしてるウーマンなど多種多様です。

飲み会が始まった頃はあんなに楽しかったのに、ホメオパシークイーンが混じりこんで、変な教義を伝え始めたがばかりに、こんな、こんな砂を噛むような会になってしまった。みんなは必死になって「ホメオパシーって間違っているよ」と伝えます。そりゃそうだ。僕以外はみんな結婚していて、子供がいてホメオパシークイーンにだって子供がいるのだから。でも、みんなが必死に訴えるほどにホメオパシークイーンは意固地になっていきます。僕はずっと黙っていました。なんか飛び火するの怖いじゃん。ですが、みんな何かしら反対意見を言うてるなかで、「お前だけ善人ぶろうとするのは卑怯やぞ」男友達に言われました。しゃーない。言うしかないんや。

ホメオパシーってさ、ナチスがあれだけ人体実験したのにだめって判断したじゃん? 科学的根拠まったくないのに何で信じてるの?」

 僕の言葉がトドメになったのかわかりませんが、ホメオパシークイーンは「もう帰る」と言い残し戻ってきませんでした。お前……会費払って行けやという気持ちになったのは言うまでもありません。

でもホメオパシークイーンにだっていい時代があったんです。同じ班になった連中と遊び歩いたこともあります。なかでも一番思い出深いのは中学三年生の卒業式を前日のこと、僕の地方は机や椅子の高さが可変式で、彼女が工具の扱いに困っていました。僕は自分の作業が終わっていたので、彼女の仕事を手伝ってあげました。作業を終えて机と椅子を渡すと彼女はすごく良い笑顔で「シックスくんはいいお父さんになれると思う」って言ってくれたんです。ただそれだけ。彼女と付き合ったとか、男女の関係になったとかそういうことはありません。でも、彼女の優しく綺麗な表情を僕は覚えています。

 飲み会が終わって、なんともいえない微妙な空気の中、夜道を歩いていて僕はひとつの事実に気づきました。

「シックスくんいいお父さんになれると思う」って言われたけど俺結婚してねーじゃん。なんだ、あいつ昔から物事を見る目がなかったんだな。悲しい。