ウィーアーハピネス

 90年代後半から00年代初頭にかけて、僕の地元では違法薬物売る人たちが大勢いた。
駅前の夜道とか、寂れた公園でこっそりとお薬を売る半グレの集団がいて、僕が通っていた高校でも薬物汚染があり、信じれられない話だろうけど高校三年生の三学期に退学となったそれなりに連中がいた。中にはガリガリに痩せているのも関わらず、「安全なんだぜ」と言いながら薬を見せつけたやつがいた。救いようがないぐらい馬鹿な連中で発注済みの卒業アルバムに急遽白いシールが貼られたことを覚えている。
隠しキャラみてえだと思った。印刷してしまったから、そうするしかないのだけど、印刷会社の人はさぞ苦労しただろうな、という感想を抱いたのと同時に、薬物汚染とはこれほど深刻にコミュニティへと入り込んでいくのだということを学んだ気がする。
 
 ある日のこと、さまざまな連中に顔が利くY君に「実入りのいいバイトがあるから」と誘われあるアパートに行ったら、マジックマッシュルームを育てている人たちと会った。あの当時はまだマジックマッシュルームが違法薬物に認定されておらず、半グレの集団である彼らがヤクザや暴力団に目をつけられず、実入りのいいお金を手っ取り早く稼ぐことができる手段だったのだろう。マジックマッシュルームを育てている人たちは僕らと同じように、ごく普通の人たちだった。だが、やっぱり薬を育てているやつはもともじゃなかった。生産者が出荷物である、違法薬物をキメるという話は、あまり聞かないがその場の責任者であると自称する男はこう行った。
「シックスくん。このキノコはね〜すごくいい気分になれるんだ」と僕の目の前でマジックマッシュルームを摂取し、「こんなに安全!」をハピネスアピールして見せたが、ぜんぜん安全そうに見えなかった。男はこんなにキモい表情ができるのかと思った記憶がある。あまりにドン引きした僕はその場で断り家に帰った。
 
 しばらくして彼らのマジックマッシュルームの工房はアリの手によって甚大な被害を被り、商売が立ち行かなくなり解散したという話をY君から聞いた。法規制される前のことだ。それが彼らにとってよかったのか、悪かったのか僕にはわからない。
 僕が高校を卒業した年、県警が本腰を入れて検挙し、違法薬物を売る半グレ集団は軒並み壊滅した。でも、薬物で人生が壊れてしまった連中はもうどうにもならない。彼らはどうしているだろうと時々思う。
 大麻賛成派の連中は薬物で人生が終わった人たちを見たことがないのだろう。ピュア過ぎてまぶしい。